短編『墓標』
────時速、270km。
今なお走り続ける星野源の移動速度である。
彼の目にはもはや景色など見えてはいなかったし、その足は地ではなく大気を蹴っていた。
両腕はすでに無く、彼はもう二度と恋ダンスを踊ることはできない。
しかし彼の心は自由と幸福に満たされていた。
2018年にSMAPを解散に追い込んだ罪で投獄された彼は、いまに至るまでの5年間、刑務作業恋ダンスを除いた一切の動きを禁じられていた。
だが脱獄に成功した彼を縛るものはもう何もない。
「イーーーィ、バ、ボ、バ、ボ」
「イーーーィ、バ、ボ、バ、ボ」
仲間のゴブリンたちも歓喜の叫びをあげていた。
こんなことが許されるはずがないということは、愚の擬人化であるところの星野であっても十分にわかっていた。
日本国憲法、第499条。
死の淵に立たされたにしおかすみこが朦朧とする意識のなかで言い放った一言でもある。
「星野源ってのは、どこのどいつだぁ〜い?
アタシだよ!
当然これを違憲とする。」
今や誰もが知る法律であった。
(ただし前澤友作を除く。前澤は月面に知性の全てを置いてきたためと考えられる。[要出典] )
星野源は笑う。
「ホーッホッホッホホホ
ホホンヒ…」
「ここに墓を建てよう・・・」
「ボーボボの墓、ボボボーボ・ボーボ墓標(ぼひょう)」
彼もまた、月を目指したひとりであった。
fin